東京地方裁判所 昭和40年(ワ)4581号 判決
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〔判決理由〕一、請求原因第一項の事実(事故の発生)は<証拠>により、これを認めることができる。
二、被告らの責任
<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
訴外竜雨(日本名白山健一)が昭和三〇年前頃から白山ブロツクの名称でブロツク建築業を始めて間もなく、その弟である被告李鉱雨(日本名白山政雄)も同人のもとでブロツク建築の職人となり、本件事故当時は同被告も訴外竜雨と同居し、同人から種々の便宜を受けながらも、請負つた仕事を同人と分担して仕上げ、仕上げ量に応じて請負代金の分配を受け、もつて独自のブロツク建築業を営んでいた。訴外竜雨は右事業に用いるため被告車を購入してその所有権を取得し、(右購入に当りその代金の一部を長兄の被告李尚雨から借りたため、名義上所有者を同被告としたが、実質的に所有権者は訴外竜雨であつた。)これを主として右ブロツク建築業の用に供していたが、被告李鉱雨も自己の事業用に自由にこれを運行使用していた。本件事故当日は、被告李鉱雨が被告車を運転して自己の仕事場に行つて仕事をし、帰途翌日の仕事の打ち合わせのため建築元請業者須永克二方に赴き、事務所前道路に被告車をそのエンジンキイーをかけ放しにしたまま、駐車させて、事務所内で須永と数分間用談していた。
他方訴外金は本件事故より二年位前から被告李鉱雨の友人として訴外竜雨や被告李鉱雨の住居の二階に下宿し、右両名とは別に独自に同じくブロツク建築を業としていたものであるが、事故当日はたまたま被告李鉱雨より先に同じく仕事の打ち合わせのため須永方に来ており一足先に須永との用談を済ませて帰ろうとして事務所前に駐車してあつた被告車を見つけ、いささか酒気を帯びていたこともあつて、被告李鉱雨に断りなくその運転を開始したが、いくらも進行しないうち本件事故を惹起した。なお訴外金は、従来被告車を運転使用したことはなかつたが、便乗させてもらうことは度々あつた。
<証拠判断>
右事実によると、被告李鉱雨は、当時被告車を自己のために運行の用に供するものであつたというべく、そして、前認定の事実および<証拠>により認められる事故発生後訴外金はただちに須永方にいる同被告の許に事故を知らせに戻つてきた事実を総合すれば、訴外金による被告車の無断乗り出しは同人と同被告ないしは被告車との前認定のような関係に基く気安さと、被告車のエンジンキイーがつけ放しになつていたことから、金は被告李鉱雨が須永方で用談をすませるまでの短時間、付近を一周して後間もなく立戻ることを予定してなされたものであると推認されるのであつて、そうとすれば、これによつて被告李鉱雨の被告車に対する運行支配が排除されたものとは到底認め難いので、同被告は依然としてその運行供用者たる地位を失つていなかつたというべきである。よつて被告李鉱雨は被告車の運行供用者として、その運行によつて生じた本件事故に基く後記損害を賠償する責任がある。
<中略>
三、損害
(一) 入院、治療費等
<証拠>によると次の事実が認められる。
原告は本件事故により頭部外傷(硬膜外および硬膜下血腫)右大腿骨骨折の傷害を受けて直ちに付近の菊地病院で手当を受け、習日から昭和三七年九月二九日まで東大附属病院清水外科に入院して右血腫除去の手術など主として頭部外傷の治療を受け、同年一〇月五日から一一月三〇日まで関東中央病院に入院して右大腿骨骨折およびこれに伴つて発生した右腓骨神経麻痺の治療を受けたが、なお脚部の屈曲が不自由なため右同日から湯河原の厚生年金病院に入院してその治療を受け、昭和三八年三月一九日退院し、その後も関東中央病院、東大附属病院に通院して検査や治療を受けた。この間の入院費、治療費および入院治療に伴う諸経費として、原告は昭和三九年七月までに左記のとおりの金員を支出した。
記
(イ)入院費および治療費 金二三六、九〇七円
(ロ)附添看護費用 金三五六、三〇五円
(ハ)家政婦費用 金 六七、八三〇円
(ニ)入院中の栄養費 金 三〇、五五四円
(ホ)交通費 金 二一、六四〇円
(ヘ)通信費 金 九一〇円
(ト)その他諸雑費 金 八、七九二円
以上の認定を左右する証拠はない。
右支出のうち、(イ)、(ロ)については原告の前記傷害の態様程度に照らし、相当額と認められ、(ハ)については、<証拠>によると、原告の祖母が平時は家事を担当していたところ、入院した原告に附添つたので、それに代つて家政婦を雇つたための費用であることが認められるが、附添看護人の他になお祖母の附添が必要であつたことを認めるに足る証拠はないから、これをもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
次に(ニ)ないし(ト)の入院中の栄養費その他の諸経費については、このうち、前認定の原告の傷害の態様、程度に照らすときは、入院期間通算二七四日を通じて一日平均の費用金一〇〇円をもつて計算した合計金二七、四〇〇円および日日の諸経費とは趣を異にする東大附属病院からの退院、関東中央病院への入院、同病院から厚生年金病院への転院に際しての寝台車代(但し運転手心付けを除く。)と退院後の用便のために必要とした組立式腰掛便器代の合計金二〇、六五〇円とが、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。(吉岡進 羽生雅則 浜崎恭生)